タンピエの30年物ロゼ
Saturday 19 September 2015
• 4 min read

これはフィナンシャル・タイムズに掲載した記事のロング・バージョンである。
完全なテイスティング・ノートについては「Domaine Tempier, new and (very) old」を参照のこと。
ドメーヌ・タンピエのバンドールほどその名をとどろかせているワインは多くはないだろう。だが、その生産者こそがその名を冠する辛口のプロヴァンス・ロゼと同じぐらい、力強い経歴を持っているのだ。
タンピエのガリッグ香るピンク色のワインはあまりに有名なため、翌年のものが入手可能になるより前に売り切れてしまう。そしてこれこそが世界でも数少ない、場合によっては数十年という単位で熟成の価値があるロゼなのだ。通常リリースは3月下旬から4月上旬だが、最も需要の大きくなる7月までにラ・カディエール・ダジュールを下った平原にあるドメーヌの地下セラーは空になってしまう。
2000年からドメーヌ・タンピエのワインメーカーを務めるダニエル・ラヴィエ(Daniel Ravier;下写真)は、ロゼがあまりに早く売り切れてしまうことを素直に認めた。彼らは新しいセラーを建設し、10~20%ほどのストックを保存したいと考えたのだが、地元の市長はドメーヌに続く道路があまりに貧弱だと言う理由で二度にわたってその建設申請を却下した。タンピエのロゼは毎年4,5回に分けて3月から5月の間に瓶詰される。「瓶詰は現金収入を得るためにやるんです。」ラヴィエは率直に話し、こう付け加えた。「でもロゼが赤より重要度が高くなるようにはしたくないんです。」信奉者の多いロゼ・ワインはドメーヌの生産量の45%以下であり、フルボディのクレレット主体の白は1988年から生産されているものの2%でしかない.
このドメーヌの物語はその大部分がバンドールの物語であると言えるし、地中海式の暮らしと娯楽の物語であるとも言える。それに初めて称賛をもって言及したのは近所に住んでいた気難しいアメリカのフード・ライターであるリチャード・オルニー(Richard Olney)だった。その後それを広く知らしめたのはその弟子でシェ・パニース(Chez Panisse)のアリス・ウォータース(Alice Waters)と、彼女の隣人で影響力の強いワイン商、カーミット・リンチ(Kermit Lynch)だ。彼はカリフォルニアのバークレーとドメーヌ・タンピエの上にそびえる丘の上の家の間をしょっちゅう行き来していた人物だ。
この物語の主人公であるカップルは現在90代で未だドメーヌで暮らしているリュシー・「ルル」・タンピエ(Lucie 'Lulu' Tempier)と、その故人である夫、リュシアン・ペイロー(Lucien Peyraud)だ。彼はこのワイナリーのプレ・フィロキセラのワインに刺激を受け、ドメーヌ・タンピエの畑でその偉大さを再現すると決意した。この畑はルルの父からの結婚祝いだったのだが、1930年代後半までには近隣同様、この地域の伝統的な品種であるムールヴェードルよりも生産性の高い品種に大部分を植え替えてしまっていた。だがリュシアンがムールヴェードルを非常に高く評価したため、バンドールは今や世界で唯一、ムールヴェードルを50%以上必要とするアペラシオンとなった。
ルルは快活で気前のいい、センスのいいもてなしをする女性であり、ペイロー家の食卓は世界中で称賛されるようになった。その食卓は常にプロヴァンスの土地に根差したものであり、オルニーの著書、「ルルのプロヴァンスの食卓」に書かれたブイヤベース、タプナード、ラタトゥイユ、アイオリなどが多くの人々を魅了した。現在セラーではこのエネルギッシュで日焼けしたカップルの白黒写真が大きな場所を占めている。彼らには子供が7人おり、うち2人が長いことドメーヌの経営を担当している。
タンピエのワインメーカーの仕事は単なるワイン・ビジネスだけではない。ダニエル・ラヴィエはサヴォワ出身の農業技術者であり、1987年からバンドールを拠点としているが、その開放的で少年のような外見とラグビー選手の堅実性でその役割を十分に果たしている。このワイナリーは常に有機栽培だが、彼は数年前、更にビオデナミへと歩を進めた。また、やや魅力に欠けていたセラーの微調整も行った。この10年ほどで彼は古い50ヘクトリットルの丸い樽数個をオーストリアのストッキンガー(Stockinger)にいる友人から購入した新しいものに替えた。彼はラストーの因習打破主義者で伝統主義者でもあるジェローム・ブラッシー(Jérôme Brassy)と大の仲良しで、彼の自慢である様々な赤ワインをステンレスおよびセメントのタンクで発酵している。
赤は4種類あり、全ての区画をブレンドしたクラシック(Classique)と、平原ごしの斜面に見える特定の単一畑から作られたより高価な3種だ。ラ・ミグア(La Migoua)は非常に生き生きとした、地質学的偶然性の産物で、標高は高くても270~300 mである。この畑はブドウが最も早く成熟し、他のブレンドよりもフルーティなサンソーとグルナッシュを多く用い、ムールヴェードルの割合は50%強に過ぎない。私が昨年7月、たまたまその日現地を訪れていた二人のイギリスのワイン商と一緒にドメーヌでテイスティングした際にはラ・ミグアが女性的なのか男性的なのかで意見が分かれ、実のない議論が起こった。もちろん、ワインそのものには実があったのだが。
ラ・トゥルティーヌ(La Tourtine)は人気の高いパワフルで熟成のゆっくりな、非常に固いタンピエの赤で、粘土質の土壌で育つ。一方トゥルティーヌのすぐ下は最も高価なワインであるカバッソウ(Cabassaou)に使われる区画で、すり鉢状の斜面によってミストラルから守られている。ムールヴェードルの、樹齢55年以上の古樹が通常はカバッソウの95%を占め、タンピエの全ての赤の中で最も濃い。
同席したワイン商の一人、フィールズ・モリス&ヴァーデン(Fields Morris & Verdin)のロイ・リチャーズ(Roy Richards)はラヴィエにタンピエの熟成の可能性を我々に見せるべきだと強く主張したため、我々は結局2ダースものワインをテイスティングすることとなり、私に同行していた近隣在住の友人は非常に驚いていた。2014は非常に期待の持てる出来で、2013はラヴィエの言葉を借りると「奇妙な」年だったためか、やや痩せていた。2012は良い感じになってきていたが、2011はもう少しおいておいた方が良いとのことだった。トゥルティーヌ1982は(ブショネのためもう1本開けたのだが)華やかで、おそらく若いうちは硬すぎて楽しめなかっただろうと思われた。
それにしても、ロゼのヴァーティカルテイスティングである。その大部分は55%のムールヴェードルにほぼ等量のグルナッシュとサンソーがブレンドされているものだったが、驚くべき発見だった。最新の3ヴィンテージを紹介した後(現在までには2015の醗酵が終っているだろうが)彼は更に古い2006、1988、1981のワインを開けてくれた。ワインのスタイルとして、理論的には収穫から1年以内に飲むように作られたワインである。
確かに1981はやや甘ったるく枯れかけていたが、1988タンピエ・ロゼは私がこれまで飲んだ中で最高のロゼと言えるだろう。クリーミーでバラの花びらを思わせるにもかかわらず極辛口の余韻は才能のあるシェフ、例えば階上で眠っているルルを呼んできたくなるような味わいだ。私のテイスティング・ノートにも格言のようなコメントが書いてある。「ウニと最高に相性がいい?」と。それは全く驚くべき経験だった。我々はあの反対派の市長にみんなで陳情すべきだろう
タンピエのお気に入り
Rosé 2014
White 2013
Classique Red 2014, 2012
La Tourtine 2014, 2012, 2001, 1982
La Migoua 2014
Cabassaou 2014, 2012, 1988
完全なテイスティング・ノートについては「Domaine Tempier, new and (very) old」を参照のこと。
(原文)
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