Free for all
ロイのすべて
この記事の相当短いバージョン(半分以下の長さ)はフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。 リバティ・ワインズのトップ、デヴィット・グリーヴ(David Gleave)はおそらくイギリスのワイン業界で最も人気があり成功している男だろう。だが彼にとってロイ・リチャーズ(Roy Richards)こそが理想のワイン商であり、自分の専門分野に関する比類なき知識と完ぺきさを兼ね備えた人物である。「私が最も尊敬する人物として彼に匹敵する人はほぼいないと言えます」 リチャーズは300年の歴史のあるセントジェームスのワイン商、ベリー・ブラザーズ・アンド・ラッドでの4年の勤務を終えたところだ。彼の会社であるリチャーズ・ウォルフォードはベリーズへワインを供給する最大の企業となっていた。リチャーズにもパートナーであるマーク・ウォルフォードにも、この巨大な力を持ちつつ世間にはあまり知られていない企業を継ぐことに関心のある後継者がいなかったため、最終的にベリーズがそれを吸収することになった。 ワイン業界における34年間を振り返ってリチャーズが誇るのは「この国の嗜好をある程度変えたこと~特にブルゴーニュについてね。それから誰もその存在を知らなかった生産者、例えば南仏のゴビー(Gauby)やロック・ダングラード(Roc d'Anglade)なんかを紹介したことかですね。彼らには融資もしたし、少なくとも南アフリカのイーベン・サディ(Eben Sadie)にそうしたように、創業資金の援助はしていましたからね。ウォルフォードには内緒で、ただそうしたんですよ。」(ウォルフォードは現在共同で立ち上げたルーションのワイナリー、ル・スラ(Le Soula)を経営している) 私がイーベンになにが起こっていたのか尋ねるとこういう答えが返ってきた。「ロイ・リチャーズについて端的に述べろというのはまず無理な話ですね。彼は私にとってこれまでも、今後も永遠に最も偉大なワインの師ですから。私がこれまで知り合って幸運だと感じた最後の人種と言えるかもしれません。最近は長いこと一緒に過ごしていませんが、彼こそは偉大なるワインそのものです。」(訳注:原文の意図をジャンシスに尋ねたうえでの意訳) 「私の中で彼はこれまでに出会った中で三本の指に入るテイスターであり、その舌には絶大な信頼が置けます。ロイに出会ったのは27の時ロンドンでのことですが、最初からものすごく印象が強かったですね。2001年に単独でドメーヌを立ち上げた時、ワインの世界で成功するか否かは最初に作ったワインをロイの前に届けられるかどうかにかかっているとわかっていました。ちょうど2001年の後半に彼が南アフリカを訪れたので、私はなんとか彼に2時間ほどの時間を空けてもらうことができました。彼は当時掘立小屋でしかなかった小さなワイナリーに来てくれたので、私たちはその時あった18の樽からサンプルを抜き取り、1つのデカンターに入れました。私はそれを家に持ち帰って座り、彼の前に注ぎました。それはまるで永遠のように感じられましたが(私はストレスで吐きそうになり、二度外に出たほどです)、彼はそのワインを非常に繊細かつしなやかで、偉大なものになる素質を備えている、と言ってくれました。」 「当時私たちは資金繰りに苦労していたのですが、彼はその場で革のブリーフケースから小さな紙切れを取り出すと生産量の半分を買う契約をしてくれたのです。彼は私にそれを彼のオフィスに送るように、そうすれば翌週には瓶詰め価格として生産量の半分の価格を支払う、と言ったのです。彼は自分はあちこち飛び回っているからオフィスに送ってほしいのだと言いました。そしてもちろん、翌週には現金が銀行に振り込まれ、瓶詰めの資金ができたのでそれを世界中に届けることができたのです。彼はそういう人なんですよ。もし彼がいなかったらどうなっていたかと思うとぞっとします。彼は私たちが巨大なハードルを越える助けをしてくれましたし、私たちはそれを一生忘れません。彼はそうする必要はなかったんです。でもしてくれました。そんなことを他の人にもしているんですよ!近いうちにもう一度彼に会いたいと願うばかりです。」...
13 Mar 2025