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イギリスの偉大な冒険

Thursday 3 March 2016 • 7 分で読めます
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これは今日フィナンシャル・タイムズ・ドットコムに掲載され、土曜にはフィナンシャル・タイムズ紙に掲載される予定の記事のかなり長いバージョンである。

「シャンパーニュの売り上げは減り、イギリスのスパークリングが最終的にシャンパーニュのシェアの半分を乗っ取ることになるだろう。」そう予想するのはイアン・ケレット(Ian Kellett;写真)で、ドレスナー・クラインオート・ベンソンの元マネージング・ディレクターで現在は非常に多忙でプランプトンのコースを修了したハンブルドン・ヴィンヤードのオーナーだ。彼はイギリスの最大の長所はシャンパーニュのヘクタール当たり90万から210万ユーロという価格に比べて地価がはるかに安い点と「農家が売りにさえ出せば」栽培に適した土地に困らない点を挙げる。彼はまた、シャンパーニュの価格が在庫の債務負担が上がるにつれて上昇し続けるとも予測している。

現在イギリス最大のスパークリング生産者の一つ、チャペルダウン(Chapel Down)のチーフ・エグゼクティヴ、フレイザー・トンプソン(Frazer Thompson)によると、ドン・ペリニヨンの生産責任者であるリシャール・ジェフロワ(Richard Geoffroy)を筆頭にシャンパーニュの専門家たちが今やイギリスのライバルたちを羨望のまなざしで見つめていると言う。それは彼らが規則に縛られず、自由に独創的な実験ができるからだ。

イギリスで急増している多くのヴィニュロンの未来は今のところ非常に明るいため、トンプソンは「ノース・ダウンとサウス・ダウンのゴールドラッシュ」と呼んでいる。イギリスのブドウ栽培面積はこの7年で倍増し、現在5000エーカー(2000ヘクタール)を超え、栽培業者は470、そのブドウを醸造するワイナリーは135軒だ。

トンプソンにとって、2012年はひどいヴィンテージだったかもしれないが、「坂道を雪だるまを転がしながら登っているような感覚が消えた」年でもあったようだ。ウィリアムとケイトの結婚式の会食とロンドン・オリンピックがその一翼を担った。

イギリスのワイン業界への大量の新参者の流入は他業界で成功した人々がその潤沢な資金を次第に信頼度を増す新しい冒険につぎ込んだ結果によるものが大きい。イアン
ケレット(Ian Kellett)はその典型的な例だろう。サイモン・ロビンソン(Simon Robinson)は企業向け顧問弁護士事務所であるスローター&メイ(Slaughter & May)のシニア・パートナーだったが、2008年に初めてのブドウをハッティングレーに植えた。ハンブルドンとハッティングレー・ヴァレーではシャンパーニュと同じブドウと製法を使って素晴らしいスパークリングワインを作ることができるのがすでにわかっていたが、そのスタイルは明らかにイギリスのそれであり、きりりとした仕上がりとなることが多い。

ラスフィニー・エステイト(Rathfinny Estate)のマークとサラのドライバー夫妻はそれぞれヘッジファンドのマネージャーと弁護士だったが、今は最もぜいたくな投資のパートナーであり、ブライトンとイーストボーンの間にあるサウス・ダウンに600エーカー(240ヘクタール)もの土地を購入し、2020年までに年間100万本のスパークリングワインの生産を目指し、400エーカーのブドウ畑を作る予定だ。彼らは現時点で1000万ポンド以上を投資したことを認めており、最終的には36人のフルタイム労働者と200人の収穫作業員を雇う予定だ。彼らは魅力的で寛大なスポンサー活動によって一躍人気者となり、最近イギリスのワインの研究機関として注目を集めるようになったプランプトン近くのラボにはラスフィニーの名前が付けられているほどだ。また、ドライバー夫妻のケントとハンプシャーで注力している地道な活動としては、サセックスにシャンパーニュのようなアペラシオン認定の推進がある。

イギリスのワインについ最近投資を決めた別の夫婦はルースとシャルルのシンプソン夫妻だ。彼らはラングドックのドメーヌ・サント・ロゼ(Domaine Sainte Rose)ですでに成功を収めている。2012年、彼らはケントにある石灰質の2区画を購入しバーハムの近くにワイナリー用の建物も購入した。ルースはウィスキーのウィリアム・グラントの一族で、「サント・ロゼで過ごしている頃からイギリスの開発に注目していたんです。ここが最高品質のスパークリングワインの生産地になる偉大な可能性を秘めていると信じて。でもこの業界は若すぎて、栽培・醸造両面とサービスを確立し、必要なサポートを提供するにはまだまだ時間がかかりそうだとわかりました。でも参入を決めた2012年にはイギリスの業界が新規参入者へのサポートを本格化したと感じていたし、その時点で私たちも新しい挑戦の準備ができていたのです。」と説明した。彼らのイギリス産スパークリングワインは単純にシンプソンズと呼ばれることになる。

イギリス・ワインの三分の二(ブリティッシュ・ワインというのはあまり美味しくない輸入濃縮果汁から作ったものを指す)、そしてイギリスの最高級ワインはすべてスパークリングであると言える。イギリスの比較的冷涼な気候ではブドウの成熟が課題で非常に高い酸が最後まで残るが、少なくとも高い酸はスパークリングワインにとっては長所であり、逆にシャンパーニュでは気候変動によって下がり始めた酸を懸念する向きもある。

長いことささやかれてきたシャンパーニュ人がイギリスで投資するという噂はついに昨年末現実のものとなり、テタンジェが2年半に及ぶ調査の末、ケントのシンプソンズからそう遠くない場所でイギリスのインポーター、ハッチ・マンスフィールド(Hatch Mansfield)とのジョイント・ベンチャーを発表した。彼らの最初のブドウは来年5月に石灰質の畑に植えられる予定で、シャンパーニュからのさらなる投資が噂されている。ケレットは特に、シャンパーニュ人が確立した世界的な販売ルートにイギリスのスパークリングを乗せることができるという考えがあり、このことに好意的だ。

シャンパーニュで多く見られる石灰質はシャンパーニュのブドウ、シャルドネ、ピノ・ノワール、ピノ・ムニエから作られる高品質のスパークリングワインとは密接な関係があり、ケント、サセックス、ハンプシャー、ドーセットの一部(確かに一部だけなのだが)で見られる。多くの注目の生産者たちはこの石灰質の上にある畑を獲得しているのだ。

一方、プランプトンで修業したハッティングレーのワインメーカー、エマ・ライス(Emma Rice)によると現実を全く理解していないヴィニュロン志望者からの問い合わせも後を絶たないという。彼女は南向きの斜面にブドウを植えたがる典型的な退職後の金持ち紳士の例を挙げた。「彼の妻がブドウ畑を見渡す眺めに憧れているからだそうです。彼らはイギリスでブドウを育てることが簡単でないことがわかっていません。私たちの栽培マネージャーは夏に休暇をとることは許されません。常にブドウを見ていなければなりませんからね。」気まぐれな気候のおかげでイギリスのブドウの出来は大きくばらつく。悪夢のような年は寒く雨の多かった2012年で、ハッティングレーは200トンの収穫を見込んでいたが結局11トンに終わった。ナイティンバーは高品質のイギリスのスパークリングの先駆けだが、彼らは2012年の生産そのものを行わなかった。

イギリス・ワインで成功するためには場所の選定がカギである点には誰もが同意する。多くの畑がブドウの安定した成熟には標高の高すぎる場所(標高125m以上は一般的に危険だ)や風の強すぎる場所(海風はシャルドネの収量に破壊的な影響をもたらす)にある。この点がまさにイギリス・ワイン専門家でマスター・オブ・ワインでもあるステファン・スケルトンが1973年以来指摘する点だ。だがエマ・ライスが言うように地価は普通の農地の平均的な価格である1エーカー1万ポンドから二倍に跳ね上がっている。「彼らはステファンが絡んでいると知ってしまいましたからね。」農家の人々はヴィニュロン志望者が金持ちであることをよく知っている。

だが、トンプソンが見るように「ワインは忍耐であり、資本のある人たちはそれを持ち合わせていない」。ワイン生産、特にスパークリングワインの生産は非常に根気のいるビジネスだ。ブドウが実るまでに最低3年かかり、ワインを瓶内熟成させるためにさらに3年がかかる。ハッチ・マンスフィールドのパトリック・マクグラスMWは経験から「大量の資金を失うのはあっという間です。特に醸造所を建てるとね。」と語る。ハッティングレーは8年越しで今年は黒字に転じる予定だが、そのキャシュ・フローは他の生産者のための契約醸造によって多くが支えられている。アクサのワイン人、クリスチャン・シーリー(Christian Seely)に彼が副業として利益を見込んでいるコート&シーリー(Coates & Seely)・イングリッシュ・スパークリングワインの利益が出るのはいつかと尋ねた時、彼はすぐさまこう返信してきた。「なんだって?利益?」

自分の縄張りに初心者たちが参入し大金を畑(石灰質だろうとなかろうと)につぎ込む様子を比較的楽しんでいるのがチャペル・ダウン(Chapel Down)のフレイザー・トンプソンだ。彼は15年の経験からこう話す。「流れが一巡するとマージンはものすごくいいですよ。こういう成熟したビジネスは昔は苦労したものですが、ガスボーン(Gusbourne)のアッシュクロフト卿を見てください。我々より7年遅れてこの道に入りましたがうなるほど金を持っています。」.

チャペル・ダウン同様ガスボーンもまたイギリスのワイン・ビジネスとしては珍しい公開会社だ。チャペル・ダウンは2004年から登録し、初期の投資家としては「イギリスのビュッフェの大御所」ナイジェル・レイ(Nigel Wray)もいる。だが会社はとりわけ新たな石灰質の畑のためにさらにキャッシュを必要とし、クラウドファンディングで大きな成功を収めた。2250人もの新たな投資家がチャペル・ダウンのワイン購入が33%引きとなる点に惹かれたのだ。トンプソンによると、彼らはチャペル・ダウンはもちろん、イングリッシュ・スパークリング全体の「熱烈な販売員」になったそうだ。

もちろん重要な問題はこれらのスパークリングの販売価格だ。イギリス・ワインの生産は2014年には630万本に達した。同年、シャンパーニュの輸入は3270万本である。生産量が増加した場合、イギリスの生産者が現在の一般的な価格である1本25-30ポンドを維持していられるだろうか?

エマ・ライスには全く不安はない。彼女は自分たちの65ポンドの樽発酵ワインの需要を満たすことはできないと言う。フレイザー・トンプソンはもう少し慎重だ。彼はスーパーでの提供価格を考慮するとシャンパーニュの平均販売価格は我々が考えているよりはるかに低いことを指摘する。彼はチャペル・ダウンの未来はノン・ヴィンテージ・ブレンドを15-20ポンドで20万本売れるかどうかにかかっていると考える。「新規の生産者が目標として「一番になりたい」というのを聞きますがそれはビジネス・プランではありません。彼らはおそらくひどく失望することになるでしょう。」

チャペル・ダウンは将来これらの新規生産者との統合も視野に入れている。願わくは価値あるパズルのピースを手に入れたいところだ。

お勧めのイギリスのスパークリングワイン生産者

以下はすでに素晴らしく印象的なワインを作っている生産者で、アルファベット順に記載している。

Bride Valley
Camel Valley
Chapel Down
Coates & Seely
Court Garden
Digby
Furleigh
Gusbourne
Hambledon
Hart of Gold
Hattingley Valley
Hush Heath
Nyetimber


Ridgeview


Wiston

最新のイギリスのスパークリングと、昨年9月に行ったイギリスのスパークリングとシャンパーニュのブラインドによる比較テイスティングに関するテイスティング・ノートも参照のこと。

原文

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