ヴォルカニック・ワイン・アワード | The Jancis Robinson Story (ポッドキャスト) | 🎁 年間メンバーシップとギフトプランが25%OFF

ブルゴーニュ2021は絶望だけではない

2021年10月9日 土曜日 • 5 分で読めます
Chistophe Perrot-Minot in La Riotte

過去に例を見ないほど苦難を強いられた今年の天候について直接見聞きした話を。上の写真は9月23日、クリストフ・ペロ・ミノがプルミエクリュのラ・リオットで収穫者に指示を出している様子だ。この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。

9月19日の日曜日とその翌日、ブルゴーニュのムードは抑制的で、ある意味不機嫌とも表現できるものだった。かの有名なコート・ドールに雲は低く垂れこめ、絶え間ない土砂降りの雨は、温暖化の進む今では通常、数週間早く収穫していたはずだったブドウに降り注いでいた。ブルゴーニュでは2021年の生育期のうち、たった1日で45㎜もの降雨量を記録した場所もある。ジブリーのセリエ・オー・モワンヌでは大雨の中、オーナーのフィリップ・パスカルが2020年にはちょうど1か月前に収穫を開始していたのだと話してくれた。

9月20日、ペルナン・ヴェルジュレスで計測された雨量計

レイモン・デュルイユは1942年生まれで、コート・シャロネーズにあるリュリの畑でその生涯を通じ働いてきた人物だ。彼が言うには2021年ほど最悪のヴィンテージはなかった。4月初旬には3日連続でひどい霜に襲われ、彼と、現在ドメーヌ・デュルイユ・ジャンティアルで指揮をとる息子のヴァンサンは2021年に見込んでいた収穫の80%を失った。

それに追い打ちをかけたのが雪と、これまでにないほど寒く雨の多い夏だった。おかげでこれまでにないほどカビ病のリスクが高まった。浸透性防カビ剤の散布は簡単な解決策ではあるものの長期的にはリスクをもたらす可能性があるため使用しないと誓う生産者たちはブルゴーニュでも増加している。この状況は彼らにこの上ない緊張をもたらすこととなった。アルザスの著名な有機栽培生産者の息子はソムリエの友人に冗談でこう話したという。「2021年のヴィンテージチャートなんて簡単だよ。『有機栽培のワインを避けること』って書けばいいのさ」。

このような状況の中、ブドウの成熟は痛ましいほどに遅かった。当然収穫も遅れていく。霜で一番梢の多くが失われてしまったためにフランスの農水省から補償金が出たものの、その後二番梢を利用した収穫を検討する話も出ていた。だが、ヴァンサン・デュルイユは雨に濡れそぼる中庭でこう指摘した。「二番梢なんておとぎ話ですよ」。ブドウに自然に備わった防御本能から、小さなブドウの実がつくことは事実だ。だがそれらは一般的に完熟することは難しく、使い物にならない。

最も苦しんだのはブルゴーニュの白ワイン用のブドウだ。シャルドネはブルゴーニュの赤ワイン生産を担うピノ・ノワールよりも萌芽が早いため、霜の被害を受けやすいからだ。コート・ドールの南にあるコート・シャロネーズの多くの生産者同様、デュルイユ・ジャンティアルも通常は赤ワインよりも白ワインの生産量が多い。だからこそ、ヴァンサンの憂鬱は理解できる。彼の近隣にあるドメーヌ・ベルヴィルでは、販売できる白ワインはもう残っていないと聞いた。残念だが、この背景を考慮すればフランスの白ワインの価格上昇は避けられない背景が見えてくる。

コート・ドールの南半分、コート・ド・ボーヌでは、コート・ドールの白ワインの大半が生産されている。そのため北半分のコート・ド・ニュイよりも霜による損失や不完全なブドウの影響を大きく受けている。2021の収穫をさらに複雑なものにしているのは、収穫作業者の不足だ。生産者によっては、おそらく労働者手配の関係から、雨の中での収穫を余儀なくされた例もある。ワイン産地で雨の中で収穫を行うということは、スキー・リゾートで冬に雨に降られるのと同じぐらい気持ちが暗くなる出来事だ。

ヴィニュロンに伝わる言い伝えによれば、9月21日の秋分の日は天気の変わり目となるそうで、実際私がコート・ド・ニュイの畑に到着した9月22日には太陽が顔を出しはじめ、収穫は最盛期を迎えていた。そのためあの日曜日に雨のボーヌでランチをとった際に感じた落胆とは比べ物にならないほど、この地のムードは大きく変わっていた。

この水曜日以降に私が出会った収穫者たちはみな幸せそうで、青い空と陽の光の暖かさにうっとりしているように見えた。あまりの陽気に上半身裸になっていたり、頭を陽の光から守るために覆っていたりする人たちも多かった。

ブルゴーニュのヴィニュロンたちはブドウを地表近くになるよう非常に低く仕立てるので収穫は腰が痛くなることが多いのだが、それでも心が満たされる何かがある。この時期はレンタカー業者にとっても書き入れ時だ。コート・ドールの緑のブドウ畑は白いバンで縁取られる。今年はそれらの窓に「コロナ対策済」という証明が貼られている。私が拠点としていたモレサンドニではマスクをしている人は見かけなかったが、収穫作業者は畑までの往復時にはマスクの着用が義務付けられている。

モレサンドニのすぐ南、ドメーヌ・ド・ランブレイにかかるLVMHのクレーンを背景に並ぶバン

正午になるとあっというまに畑から人っ子一人いなくなった光景は不気味でもあった。パンデミックがもたらした変化の一つは収穫者たちがともに食事をとらなくなったことだ。一緒に食べるための大量の料理を準備する代わりに、ドメーヌの経営者たちは外部のケータリング業者が準備する個包装の弁当を準備するようになった。今どきのワイン生産者の妻たちは年一回、収穫のまかない用に大きな鍋をかき回すために家にいるのではなく、フルタイムで働いているほうが多いのかもしれない。

フランス人の大実業家、フランソワ・ピノーが所有するクロ・ド・タールの収穫者たちは畑からモレのメインストリートを歩いてすぐにあるスマートなホテルのレストラン、カステル・ド・トレ・ジラールでのランチを提供されたそうだ。

収穫チームの中には9月23日の木曜日までに収穫を修了し、誇らしげにホーンを鳴らしながら車で走り去るものもいた。

低収量と恵まれない夏のせいで2021ヴィンテージの評判が落ちてしまうことを私は恐れている。だが発酵槽に入っていくブドウは品質も良く健全だった(今年は選果台が必須の年だ)し、生産者の中には2021は気候変動の影響が顕著になる以前に典型的に見られたような、クラシックなスタイルの復活を楽しむことができるヴィンテージだと言う人もいた。

2021年9月23日、ドメーヌ・トプノ・メルムの選果台

ここ数年のブルゴーニュは非常に暖かく、ピノ・ノワールは特に危険なまでに熟度が高かった。そのためワインは凝縮感が高くアルコール度数も普段のブルゴーニュよりも高くなった。アルコール度数が14%を優に超えていたことも知られている。最も安定して完熟が期待できた畑が最も高く評価されていた古いシステムに改定の余地があると話すブルゴーニュ人に会うことも今は珍しくない。

かつてブルゴーニュの赤ワインの特徴だったデリケートさや香り高さを好んでいた愛好家たちが2021を特に好むことは大いにあるだろう。2021の潜在アルコール度数について尋ねると、生産者たちは口をそろえて控えめだけれども低すぎない、12.2から13.5%程度だと話していた。

ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティで世界的に有名な叔父のオーベール・ド・ヴィレーヌに代わってブーズロンにあるドメーヌA&Pヴィレーヌを任されているピエール・ド・ブノワによれば、2021は「男の中の男を選ぶような、そしてそれは地中海の男ではなく、典型的なブルゴーニュの男を選び出すようなヴィンテージ」だという。

シャンボール・ミュジニーにあるドメーヌ・ジョルジュ・ド・ヴォギュエの新しいワインメーカーは、自身のデビュー・ヴィンテージに取り掛かるのを待ちきれない様子だった。「ブドウは比較的小粒で、その分果汁は少ないですが、それはクラシック回帰のしるしでもあります」。

クラシックなスタイルは歓迎だが、最近のブルゴーニュの顎が外れそうになるほどの価格高騰の緩和はほとんど期待できそうにない。


なんとか手が出る価格帯のブルゴーニュ

それでも高いと思うかもしれないが、オレゴンやニュージーランド、オーストラリアなどの同等品質のピノ・ノワールと変わらない。

白ワイン

Dom Bachelet-Monnot 2018 Bourgogne Blanc
£19.18 Justerinis

Benjamin Leroux 2018 and 2019 Bourgogne Blanc
£25 Berry Bros & Rudd

Jean-Philippe Fichet, Vieilles Vignes 2018 Bourgogne Blanc
£27.50 Berry Bros & Rudd

赤ワイン

Dom Tollot-Beaut 2018 Bourgogne Rouge
£22.99 Davy's, £25 Berry Bros & Rudd

Benjamin Leroux 2018 Bourgogne Rouge
£25 Berry Bros & Rudd

Dom Thibault Liger-Belair, Les Grands Chaillots 2018 Bourgogne Rouge
£29.95 The Whisky Exchange

Dom Monthelie-Douhairet-Porcheret, Cuvée Miss Armande 2019 Monthelie
£31.50 Emile Wines

Dom Decelle & Fils, Les Beaumonts 2019 Chorey-lès-Beaune
£32.65 Haynes Hanson & Clark

世界の取扱業者はWine-Searcher.comを参照のこと。

原文

この記事は有料会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。
JancisRobinson.com 25th anniversaty logo

JancisRobinson.com 25周年記念!特別キャンペーン

日頃の感謝を込めて、期間限定で年間会員・ギフト会員が 25%オフ

コード HOLIDAY25 を使って、ワインの専門家や愛好家のコミュニティに参加しましょう。 有効期限:1月1日まで

スタンダード会員
$135
/year
年間購読
ワイン愛好家向け
  • 287,149件のワインレビュー および 15,838本の記事 読み放題
  • The Oxford Companion to Wine および 世界のワイン図鑑 (The World Atlas of Wine)
プレミアム会員
$249
/year
 
本格的な愛好家向け
  • 287,149件のワインレビュー および 15,838本の記事 読み放題
  • The Oxford Companion to Wine および 世界のワイン図鑑 (The World Atlas of Wine)
  • 最新のワイン・レビュー と記事に先行アクセス(一般公開の48時間前より)
プロフェッショナル
$299
/year
ワイン業界関係者(個人)向け 
  • 287,149件のワインレビュー および 15,838本の記事 読み放題
  • The Oxford Companion to Wine および 世界のワイン図鑑 (The World Atlas of Wine)
  • 最新のワイン・レビュー と記事に先行アクセス(一般公開の48時間前より)
  • 最大25件のワインレビューおよびスコアを商業利用可能(マーケティング用)
ビジネスプラン
$399
/year
法人購読
  • 287,149件のワインレビュー および 15,838本の記事 読み放題
  • The Oxford Companion to Wine および 世界のワイン図鑑 (The World Atlas of Wine)
  • 最新のワイン・レビュー と記事に先行アクセス(一般公開の48時間前より)
  • 最大250件のワインレビューおよびスコアを商業利用可能(マーケティング用)
Visa logo Mastercard logo American Express logo Logo for more payment options
で購入
ニュースレター登録

編集部から、最新のワインニュースやトレンドを毎週メールでお届けします。

プライバシーポリシーおよび利用規約が適用されます。

More 無料で読める記事

View from Smith Madrone on Spring Mountain
無料で読める記事 Demand, and prices, are falling. A version of this article is published by the Financial Times. Above, the view from...
Wine rack at Coterie Vault
無料で読める記事 この記事はAIによる翻訳を日本語話者によって検証・編集したものです。(監修:小原陽子)...
My glasses of Yquem being filled at The Morris
無料で読める記事 さあ、自分を甘やかそう!この記事のバージョンはフィナンシャル・タイムズ にも掲載されている。写真上は、10月30日にサンフランシスコのザ...
RBJR01_Richard Brendon_Jancis Robinson Collection_glassware with cheese
無料で読める記事 この記事はAIによる翻訳を日本語話者によって検証・編集したものです。(監修:ホザック・エミリー)...

More from JancisRobinson.com

Alder's most memorable wines of 2025
テイスティング記事 Pleasure – and meaning – in the glass. In reflecting on a year of tasting, I am fascinated by what...
view of Lazzarito and the Alps in the background
テイスティング記事 For background details on this vintage see Barolo 2022 – vintage report. Above, the Lazzarito vineyard with the Alps in...
View of Serralunha d'Alba
現地詳報 A pleasant surprise, showing more nuance and complexity than initially expected. Above, a view of Serralunga d’Alba. 2022 is widely...
The Overshine Collective
テイスティング記事 The second tranche of wines reviewed on Jancis’s recent West Coast road trip. Above, the new Overshine Collective, a group...
Albert Canela and Mariona Vendrell of Succes Vinicola.jpg
今週のワイン A rosé to warm your winter, from £17.30, $19.99. Above, Albert Canela and Mariona Vendrell of Succés Vinícola. The wind...
Les Crus Bourgeois logos
テイスティング記事 Classic, affordable bordeaux made for pleasure and selected for an independent, reliable and regularly updated classification. For all that we’ve...
Glasses of Cape Mentelle red wine on a tasting mat
テイスティング記事 This month’s Singapore selection features a majority from Western Australia, including a handsome mini-vertical of Cape Mentelle Cabernet Sauvignon. As...
Ch Pichon Baron © Serge Chapuis
テイスティング記事 A Union des Grands Crus de Bordeaux tasting in London gave us a first look at these finished wines. How...
JancisRobinson.comニュースレター
最新のワインニュースやトレンドを毎週メールでお届けします。
JancisRobinson.comでは、ニュースレターを無料配信しています。ワインに関する最新情報をいち早くお届けします。
なお、ご登録いただいた個人情報は、ニュースレターの配信以外の目的で利用したり、第三者に提供したりすることはありません。プライバシーポリシーおよび利用規約が適用されます.