ヴォルカニック・ワイン・アワード | The Jancis Robinson Story (ポッドキャスト) | 🎁 年間メンバーシップとギフトプランが25%OFF

街路で720名が楽しむディナー

Saturday 14 September 2019 • 5 分で読めます
Bolgheri dinner for 720 by candlelight

このボルゲリに関する記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。Bolgheri - the tasting notesも参照のこと。

「代替案はないんです」8月の最終日、夕方の雨の予報を見ながらトスカーナの沿岸にあるこの上なく洗練されたワインの産地、ボルゲリで心配そうに繰り返されたセリフだ。この地のワイン生産者の野心的な計画は、720名ものゲストにボルゲリという原産地呼称設立25周年を祝うためのディナーを提供するというものだった。だが、世界的に有名な古い糸杉がローマ時代のアウレリア街道と呼ばれる海沿いの道から丘の上の村まで続く並木道で開催されるこのディナーだけが、この産地の名をを知らしめたものではない。

イタリアの原産地はDOCと呼ばれるが、そのほとんどはボルゲリよりははるかに長い歴史を持っている。だがボルゲリDOCが他の主要なイタリアの産地と一線を画すには様々な理由がある。そのうち際立ったものの一つであり、今回計画されたディナーとも深い関わりがあるのが生産者間の調和と協力が他のどこよりも見られる点だ。このディナーの日に私が出会った多くのワイン専門家はボルゲリのワイン生産者組合の56名のメンバーに支えられたこの戦略がイタリアのほとんどの産地では、まったくもって不可能であるという点に同意した。対立する派閥が多すぎ、利己的な政治的提案が多すぎ、生産者間で成功しているものとそうでないものの差が大きすぎるからだ。

この協調の理由の一つとして、あるコメンテータが挙げていたのが由緒あるフィレンツェの2大勢力、アンティノリとフレスコバルディがこの地で大きな勢力を持っている点だ。彼らは互いにライバルではあるものの、社会的なコミュニケーション能力は非常に高い。組合が糸杉をシンボルとしていることから企画されたこのディナーに両社が同意すれば、皆がそれに倣うのだ。

もう一つ、ボルゲリが他のイタリアのDOCのほとんどと異なるのはイタリアの固有品種ではなく、赤のボルドーに使われるフランスの品種を主要品種としている点だ。このことはイタリアが独自に引き継いできたブドウ栽培の歴史に熱心な人々にとっては面白みに欠ける一方で、1980年代には最高級のボルドーの赤同様の価格で取引されその価値を証明した、絶大な影響力をもつワイン、サッシカイアに投資してきた海外の投資家たちにとっては非常に面白いものとなった。カベルネ主体のサッシカイアはそれを初めて商品化したアンティノリと親戚関係にあるマルケージ・インチーザ・デッラ・ロケッタのハウスワインとして1970年代中盤に生を受けた。そしてサッシカイア1985は世界で最も有名なワインの一つである。

90年代、2000年代、そして現在も、外部の投資家たちは魅惑的な蜜に群がる蜂のようにボルゲリに引き寄せられている。最も深く根を下ろしているのはアンティノリかもしれないが、そこにはあっという間に多くの人が集まった。アンジェロ・ガヤはイタリアの有名なワイン産地であるピエモンテで最も著名なワイン生産者だが、彼は1996年にボルゲリに自身のワイナリーであるカ・マルカンダを購入した。上質なヴァルポリチェッラの名手アレグリーニが参入したのは2002年。それ以外にも多くの人物が、ワイン作りの経験のないものも含めて、この地にそのワイナリーを(時には非常に小さいものもあるが)所有している。

1980年代、マルケーゼ・ロドヴィコ・アンティノリの個人事業として設立されたオルネライアの経営を2005年にフレスコバルディが引き継いだ(そのうち4分の一はモスコフスカヤというウォッカを作るロシア人の所有だ)。ここ数年、ボルゲリへの投資はアイルランド、ロシア、アルゼンチン、オーストリアなどに由来する。その魅力はこの土地がボルドーに対抗する甘美なワインを生み出すこの土地にあると考えるのはもっともだが、きらきらと光を放つティレニア海がpini marittimi と呼ばれるカサマツの深い緑に縁どられた砂浜と共に多くの畑から望むことができる点も無視しがたいだろう。 エルバ島や、時にはコルシカ島まで遠くに見えることがあるのだから。

ボルゲリは上質なイタリアワインと上質なフランスワインの結びつきを示す数少ない例だ。最近ではアンティノリのカベルネ主体のソライアやフレスコバルディの芳醇なメルロー、マッセートなどがラ・プラース・ドゥ・ボルドーに出展されるフランス以外の上質ワインの中核を担っている。(ボルドーのワイン商たちはボルドーのプリムールに対する興味が失われつつある現状を鑑み、野心的な価格の付けられた海外のワインに注力するようになり、それらを9月の初頭にリリースすることで、毎年夏のバケーション・シーズン前に販売されてきた出来立てのボルドーから得る収入を補っている)。

かつてベルヴェデーレと呼ばれ、今はグアド・アル・タッソと呼ばれるアンティノリのワイナリーは中でも非常に強大で、この原産地にある1370ヘクタールにおよび畑のおよそ三分の一を所有している(この面積はボルドーで3つの1級シャトーが存在するポヤックと同じだ)。アンティノリは週末のお祝いムードを堪能できるようマセラティと契約をし、我々ゲストがそれに乗れるよう手配していた。上の写真のマセラティはメインの建物の前に停められており、アルビエラ・アンティノリがカスタマイズしたものだと聞かされた。その車列は土埃をかぶりながら、元々のグアド・アル・タッソの敷地からアンティノリがチンタ・セネーゼ豚を育てている森の奥深くにある会場まで我々60名のゲストを運んだ。そこで我々は、その夜に企画されていたディナーの300mのテーブル程の長さはなかったものの1つの長テーブルでのピクニック・ランチを楽しんだ。


セミが多かったものの、ランチの間に鳴り響いた不吉な雷鳴をかき消すほどではなかった。「代替案はないんです」私の向かいに座っていたアルベイラ・アンティノリはポーク・ハンバーガーとトマトソースの入った小枝細工のカゴを我々に手渡しながら、空をしかめ面で見上げ、そう打ち明けた。

結局、ボルゲリに代替案は必要なかった。夜は穏やかな天候となったのだ。イタリア、あるいは世界中からのゲストは適切な案内のおかげで8時までには着席し、驚くほど素晴らしい品質の4皿のコース料理が2カ所のテントにあるキッチンからフィレンツェにあるGuido Guidi Ricevimenti のスタッフによって手際よく提供された。非常の多くのワインはテーブルによって異なり、主要な生産者からの提供だった。

各テーブルにはブドウ品種の名前が付けられていたが、驚いたことにソーヴィニヨン・ブランやシラー(上の写真)など、ボルゲリとすぐに関連付けられない品種もあった。確かに、オルネライアでは長きにわたりソーヴィニヨン・ブランを栽培しているものの、これはロドヴィコ・アンティノリが個人的にこの品種を好きなためであり、トスカーナ沿岸の温暖な気候がこの切れが良くアロマティックなワインに完璧な環境であるためというわけではない。オルネライア・ビアンコはマールボロやサンセールというよりもナパ・ヴァレーのソーヴィニヨン・ブランに似ている。ボルゲリの白ワインは現在流行のヴェルメンティーノに注力しているが、ボルゲリが本当に有名なのはその赤ワインだ。

他の多くの地域と同様、この地域も年々気温が上がり夏の降水量が減っているため、多くの生産者がそれに対応するため特定の赤ワイン用品種に注目するようになってきた。早熟なメルローは大事に育てられているマッセートですら、ボルゲリの中でも最高の場所では冷却効果のある冷たい海風を有効利用できるにもかかわらず、特に困難に直面している。カベルネ・ソーヴィニヨンもまた、夏が非常に暑かった年は重苦しい味わいになりがちだ。一方香り高いカベルネ・フランは現在多くの生産者のお気に入りで、この地が非常に温かいことから、他のボルドー品種にブレンドするというよりは単一品種のワインとして成立させることができる(下記の価値ある例を参照のこと)。だが注意して欲しい。ボルゲリは決して安くはない。

トスカーナ沿岸部で作られるカベルネ・フランのワイン

Bolgheri
Guado al Tasso, Matarocchio
Il Macchiole, Paleo
Poggio al Tesoro, W Dedicato a Walter
Argentiera, Ventaglio (yet to be released)

Costa Toscana just north of Bolgheri
DueMani

追記として。カベルネ・フランはメルローにフレッシュさを加えるためにマッセートにも今回初めて植えられた。

原文

この記事は有料会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。
JancisRobinson.com 25th anniversaty logo

Celebrating 25 years of the world’s most trusted wine community

日頃の感謝を込めて、期間限定で年間会員・ギフト会員が 25%オフ

コード HOLIDAY25 を使って、ワインの専門家や愛好家のコミュニティに参加しましょう。 有効期限:1月1日まで

スタンダード会員
$135
/year
年間購読
ワイン愛好家向け
  • 286,962件のワインレビュー および 15,835本の記事 読み放題
  • The Oxford Companion to Wine および 世界のワイン図鑑 (The World Atlas of Wine)
プレミアム会員
$249
/year
 
本格的な愛好家向け
  • 286,962件のワインレビュー および 15,835本の記事 読み放題
  • The Oxford Companion to Wine および 世界のワイン図鑑 (The World Atlas of Wine)
  • 最新のワイン・レビュー と記事に先行アクセス(一般公開の48時間前より)
プロフェッショナル
$299
/year
ワイン業界関係者(個人)向け 
  • 286,962件のワインレビュー および 15,835本の記事 読み放題
  • The Oxford Companion to Wine および 世界のワイン図鑑 (The World Atlas of Wine)
  • 最新のワイン・レビュー と記事に先行アクセス(一般公開の48時間前より)
  • 最大25件のワインレビューおよびスコアを商業利用可能(マーケティング用)
ビジネスプラン
$399
/year
法人購読
  • 286,962件のワインレビュー および 15,835本の記事 読み放題
  • The Oxford Companion to Wine および 世界のワイン図鑑 (The World Atlas of Wine)
  • 最新のワイン・レビュー と記事に先行アクセス(一般公開の48時間前より)
  • 最大250件のワインレビューおよびスコアを商業利用可能(マーケティング用)
Visa logo Mastercard logo American Express logo Logo for more payment options
で購入
ニュースレター登録

編集部から、最新のワインニュースやトレンドを毎週メールでお届けします。

プライバシーポリシーおよび利用規約が適用されます。

More Free for all

View from Smith Madrone on Spring Mountain
無料で読める記事 Demand, and prices, are falling. A version of this article is published by the Financial Times. Above, the view from...
Wine rack at Coterie Vault
無料で読める記事 この記事はAIによる翻訳を日本語話者によって検証・編集したものです。(監修:小原陽子)...
My glasses of Yquem being filled at The Morris
無料で読める記事 さあ、自分を甘やかそう!この記事のバージョンはフィナンシャル・タイムズ にも掲載されている。写真上は、10月30日にサンフランシスコのザ...
RBJR01_Richard Brendon_Jancis Robinson Collection_glassware with cheese
無料で読める記事 この記事はAIによる翻訳を日本語話者によって検証・編集したものです。(監修:ホザック・エミリー)...

More from JancisRobinson.com

Albert Canela and Mariona Vendrell of Succes Vinicola.jpg
今週のワイン A rosé to warm your winter, from £17.30, $19.99. Above, Albert Canela and Mariona Vendrell of Succés Vinícola. The wind...
The Overshine Collective
テイスティング記事 The second tranche of wines reviewed on Jancis’s recent West Coast road trip. Above, the new Overshine Collective, a group...
Les Crus Bourgeois logos
テイスティング記事 Classic, affordable bordeaux made for pleasure and selected for an independent, reliable and regularly updated classification. For all that we’ve...
Glasses of Cape Mentelle red wine on a tasting mat
テイスティング記事 This month’s Singapore selection features a majority from Western Australia, including a handsome mini-vertical of Cape Mentelle Cabernet Sauvignon. As...
Ch Pichon Baron © Serge Chapuis
テイスティング記事 A Union des Grands Crus de Bordeaux tasting in London gave us a first look at these finished wines. How...
View from Le Ripi towards Monte Amiata
現地詳報 この記事はAIによる翻訳を日本語話者によって検証・編集したものです。(監修:ホザック・エミリー) 2025年...
AdVL Smart Traveller's Guides covers
書籍レビュー 現地でのワインと食事に関する実践的なアドバイスを求めるワイン愛好家のための、洗練された6冊のガイドブック。 スマート・トラベラーズ...
Lilibet's raw fish bar
ニックのレストラン巡り 土曜日のランチには何か特別なものがある。メイフェアの最新オープン店で楽しんだランチの物語。とても豪華だ! 40年以上にわたって...
JancisRobinson.comニュースレター
最新のワインニュースやトレンドを毎週メールでお届けします。
JancisRobinson.comでは、ニュースレターを無料配信しています。ワインに関する最新情報をいち早くお届けします。
なお、ご登録いただいた個人情報は、ニュースレターの配信以外の目的で利用したり、第三者に提供したりすることはありません。プライバシーポリシーおよび利用規約が適用されます.